新旧の共生と融合で織り成された、兵庫独自の文化を感じる旅

新旧の共生と融合で織り成された、兵庫独自の文化を感じる旅

2022年01月31日

The KANSAI Guide

世界でも有数の良港として名高い神戸港を擁する、兵庫県神戸市。日本でいち早く世界に向けて開かれた港町は、人と文化の交流を通じて独自の風土を育んできました。一方で、平清盛による「福原の都」造成から続く日本古来の歴史文化も大切に継承されています。
巷にあふれる“お洒落で洗練されたエキゾチックな街”というイメージを抱いているうちは、神戸本来の魅力に出会うことはできません。神戸に脈々と受け継がれる日本古来の歴史や文化と正面から向き合って理解したうえで、それぞれを織り交ぜて見つめなおしてみると、これまでと違った神戸のイメージが立ち上がってくるはずです。
神戸の旅を通じて、新旧が織り成す上質な文化を体験してみましょう。

伝統と時代の調和に魅了される、有馬温泉の名旅館

緑あふれる1400坪の敷地に、独立型の山叢が点在

緑あふれる1400坪の敷地に、独立型の山叢が点在

天井が高く広々としたロビーフロア。モダンな雰囲気が印象的

天井が高く広々としたロビーフロア。モダンな雰囲気が印象的

神戸を巡る旅のスタートは、新神戸駅。港町の風情は後々のお楽しみとして、六甲山を越えて有馬温泉へ向かいます。
六甲山の北麓に広がる関西の奥座敷、有馬温泉。日本初の正史である日本書紀にも記された日本最古級の温泉地で、日本三古湯、日本三名泉のひとつに数えられています。
神戸の中心市街地から車で30分足らずの便利な立地にありながら、山に囲まれた温泉街一帯は旅情満点。多くの人が浴衣姿のそぞろ歩きで外湯や多彩なお店を巡る光景は、これぞ日本の温泉街といった雰囲気です。
そんな温泉街の中心地から少し奥へ進んだ先、行き交う車も人も少ない静かな場所に佇んでいるのが、今夜の宿泊先「有馬山叢 御所別墅」。800年以上も前から湯守によって営まれてきた老舗宿「御所坊」の別邸です。約1400坪という広大な敷地には花や木々など自然があふれ、全10室スイート仕様の山叢(さんそう)が点在しています。100㎡の広さがある室内は、シックなインテリアでまとめられたモダンな空間。温泉宿といえば純和風というイメージを、良い意味で覆されました。

プライベート体験で知る、雅で艶やかな有馬芸妓の文化

部屋のリビングで、現役芸妓さんの舞踊をプライベート鑑賞

部屋のリビングで、現役芸妓さんの舞踊をプライベート鑑賞

芸妓さんからお酌を受けていただくお酒は、また格別の味わい

芸妓さんからお酌を受けていただくお酒は、また格別の味わい

良質な温泉と贅沢な時間に身をゆだね、地元の厳選食材が盛り込まれた夕食を少し早めにいただきます。部屋へ戻って寛いでいると、着物と日本髪姿の女性が訪ねてきてくれました。夕食後の時間は、有馬芸妓さんとのお座敷遊び体験です。
芸妓とは、舞踊や唄、囃子などで宴席の場を演出する女性。有馬芸妓は、温泉客の世話係だった「湯女(ゆな)」をルーツに発展し、日本における芸妓の発祥ともいわれる有馬温泉の伝統文化です。時代とともに温泉宿での楽しみ方が変化するなか、兵庫県で唯一残る芸妓文化として古きよき温泉街の伝統を継承しています。
そんな有馬芸妓さんとのお座敷遊びをプライベートで楽しむ特別体験は、リビングフロアでの舞踊で幕開けです。三味線の音色に合わせて舞い踊る芸妓さんの姿は、美しくしなやかで何とも芸術的。見惚れながら、どんどん惹き込まれていくのが実感できます。
舞踊後のひと時は、ソファに場を移して芸妓さんからシャンパンのお酌を受けながら歓談。有馬芸妓の歴史や伝統から、舞踊の物語、有馬温泉の楽しみ方まで多彩な話題にまたも惹き込まれ、ついつい杯が進むのでした。

日本屈指の酒処を巡り、日本酒の奥深さを体感

近代的な風景のなかに残る酒蔵建築が、酒処の歴史を物語っている

近代的な風景のなかに残る酒蔵建築が、酒処の歴史を物語っている

酒蔵玄関の軒下に吊るされた、さかばやしと呼ばれる杉玉

酒蔵玄関の軒下に吊るされた、さかばやしと呼ばれる杉玉

新旧織り交ぜた有馬温泉の魅力に浸り、二日目の朝を迎えました。山あいの温泉街を後にし、神戸市街へと車を走らせます。この日最初に体験するのは、日本国内はもちろん広く海外でも知られる灘の酒です。
京都の伏見、広島の西条とともに、日本三大酒処のひとつに数えられる、兵庫の灘。現在の神戸市灘区から西宮市今津にかけた大阪湾沿岸12kmのエリアに、西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの酒処が形成され、「灘五郷」の名で広く知られています。
訪ねたのは、「灘五郷」のなかでも多くの酒蔵が残る、東灘区の御影郷と魚崎郷。酒蔵通りと呼ばれる道沿いには、白壁に杉板の蔵と巨大タンクが共存する風景が広がり、歴史ある酒処の今を感じさせてくれます。
早速、日本酒ソムリエのガイドで数カ所の酒蔵を訪問。それぞれ、資料館の見学や蔵人からの説明で酒造りについて学んだ後、蔵出しの酒を試飲します。蔵によって個性が異なることはもちろん、同じ蔵でも銘柄や品種によってさまざまな味や飲み口があることを実感。日本酒の奥深さを知ると同時に、灘の酒の魅力を五感で味わえたことは、とても貴重な経験となっています。

旧財閥の邸宅で楽しむ、美酒と美食のマリアージュ

青空の下、広い庭と豪奢な建物が美しく映える

青空の下、広い庭と豪奢な建物が美しく映える

灘の酒とのペアリングで、県産食材の美味しさに開眼

灘の酒とのペアリングで、県産食材の美味しさに開眼

日本酒ソムリエと蔵人の的を射たアドバイスのおかげで、お気に入りの日本酒に出会えた灘の酒蔵巡り。上機嫌で足取り軽く、次の目的地を目指しました。
到着したのは、同じ東灘区の山手に広がる閑静な住宅街。一帯には、立派な石垣や大きな門を構えた豪邸が立ち並んでいます。そんななかで、ひときわ目を引く豪奢なお屋敷。築80年以上の歴史をもつ旧財閥の別邸をリノベートしたレストラン、『ザ・ガーデン・プレイス蘇州園』です。
館内に足を踏み入れると、建築美とともに贅を尽くしたインテリアや調度品に感嘆。窓越しに望む広大な庭の景色にも、眼と心が奪われます。
じっくり館内と庭を見学させていただいた後は、特別体験の時間。兵庫県産の厳選素材をふんだんに盛り込んだコース料理と、先ほど手に入れた灘の酒とのペアリングによる特別なランチタイムです。
お気に入りのお酒を少しずつ嗜みつつ、素材の美味しさが際立つ料理をいただきながら、マリアージュを楽しむひと時。兵庫の食の豊かさと、灘の酒の実力を改めて体感する、特別な時間となりました。

神戸の守り神が鎮座する、「天空の杜」へ

平清盛による創祀以来840余年。高台から神戸の町を見守り続ける

平清盛による創祀以来840余年。高台から神戸の町を見守り続ける

日没後の境内からは美しい神戸の夜景を一望。まさに「天空の杜」

日没後の境内からは美しい神戸の夜景を一望。まさに「天空の杜」

美酒と美食のマリアージュで、兵庫の豊かな食文化を体感したランチタイム。至福のひと時を過ごした後は、旅のクライマックスとなる特別文化体験を残すのみです。
神戸の中心市街地である三宮へ移動。そこから六甲山系に向かって延びる長い坂道を上った先には北野異人館街が広がり、かつて外国人の居留地だった頃の面影を留めています。そんな異国情緒のなかで異彩を放つ、立派な鳥居と石段の参道。その先で神戸の町と港を見守るように鎮座しているのが、特別文化体験の舞台となる北野天満神社です
創建は、平安時代の治承4年(1180)。政権が公家から武家へと移行する時代に権威をふるっていた平清盛公が、京都から神戸・福原への遷都にあたり京都の北野天満宮を勧請したのが始まりとされています。
閉門の時間を待って特別入場させていただいた境内は、北野異人館街の一角とは思えない静けさ。夕闇迫る北野の街並みと神戸の市街地、神戸港を一望する絶景が独占状態です。この場が「天空の杜」と称される所以を、改めて実感できます。
しばし絶景を堪能した後、御祭神として祀られる菅原道真公を参拝。ここまでの旅の無事を感謝し、特別文化体験の能鑑賞を見守ってくださるよう祈願しました。

かがり火に浮かび上がる、神々しい能の舞

神戸の夜景をバックに、かがり火に照らし出された能舞台

神戸の夜景をバックに、かがり火に照らし出された能舞台

主人公の若武者の霊魂が宿ったかのような、能「箙」の舞

主人公の若武者の霊魂が宿ったかのような、能「箙」の舞

日没後、夜の闇に包まれた境内は、神秘的な雰囲気。そんな空間で、100万ドルと称される神戸の夜景を独占しているだけでも、特別な体験です。しかし、真の特別文化体験である能鑑賞はこれから。能舞台となる拝殿の周りには神職の方によって薪のかがり火が灯され、神秘的な雰囲気はさらに増してきているようです。
こうした状況で特に選りすぐった演目が演じられる能は、「薪能」と呼ばれます。海と山からの風に揺られる炎に合わせて、能舞台もゆらめくように目に映る様は薪能ならではの風情。最新の舞台装置や照明技術を以ってしても演出できないであろう、幽玄の美です。
そんななか、地元神戸の観世流・上田家一門の若き能楽師が能舞台に上がります。演じられるのは、「箙(えびら)」。神戸での源平合戦の物語と故事を題材にした、地元ゆかりの演目です。
100万ドルの夜景を背景に、かがり火が照らし出す「箙」の舞。神が宿ったような荘厳さに圧倒されながら固唾をのんで見つめ続け、演目が終わった後もしばらくその場から動くことができませんでした。あの夜、源平合戦から800数十年の時を経た神戸の地には、主人公である若武者の霊魂が蘇ってきていたはずです。

伝統と時代が調和した温泉街でのステイ、日本屈指であり続ける酒処散策、美酒と美食のランチ、絶景の神社での能鑑賞。神戸の旅での体験は、数あるガイドブックを読破しても成し得ないものばかりだった気がします。
もっと深く神戸を知りたい。旅の最後にそう感じたならば、神戸の旅は大成功だったと思っていいでしょう。神戸の魅力は、今も進行形で紡がれ続けていますから。

関連記事

最終更新 :
  • HOME
  • 兵庫県
TOP