「天空の杜」で神戸の夜景を背景に薪能を特別鑑賞

「天空の杜」で神戸の夜景を背景に薪能を特別鑑賞

2022年01月31日

The KANSAI Guide

世界でも有数の良港として名高い神戸港を擁する、兵庫県神戸市。日本でいち早く世界に向けて開かれた港町は、人と文化の交流を通じて独自の風土を育んできました。“お洒落で洗練されたエキゾチックな街”というイメージが強い一方で、日本古来の歴史遺産や文化が大切に伝承されていることも魅力です。
そんな神戸での特別文化体験は、100万ドルと称される神戸の夜景を背景に、かがり火の灯りの中で行われる薪能を特別鑑賞します。800年以上前から神戸の街を見守り続ける「天空の杜」の能舞台で、「夙川能楽舞台瓦照苑(以下、瓦照苑)」に所属する新進気鋭の能楽師が演じる源平合戦の物語。
彼らがモットーとする「対話」を心がけて鑑賞すれば、神戸の街と能の世界への理解がより深まるはずです。

「天空の杜」と呼ばれる平氏ゆかりの宮、北野天満神社

平清盛による創祀以来840余年。高台から神戸の街を見守り続ける

平清盛による創祀以来840余年。高台から神戸の街を見守り続ける

神戸の中心市街地から坂道を上った先の高台に広がる、北野異人館街。エキゾチックな街の一角に、和の情緒あふれる神社が鎮座しています。特別文化体験の舞台となる、北野天満神社です。
創建は、平安時代の治承4年(1180)。政権が公家から武家へと移行する時代に権威をふるっていた平清盛公が、京都から神戸・福原への遷都にあたって創祀したのが始まりとされています。京都の平安京を守護する北野天満宮を勧請して社殿を造営し、新しい都の禁裡守護・鬼門鎮神としたのです。
御祭神は、学問や芸能など文化の神として崇められる菅原道真公。その御神徳を授かろうと試験の合格や芸の上達を願う人びとが祈願に訪れ、境内は時期を問わず多くの参拝者で賑わっています。境内からは、北野の街並みと神戸の市街地、神戸港を一望、「天空の杜」と称される所以です。
そんな境内中央に立つ拝殿が、今回の特別文化体験プログラムである能鑑賞の舞台。江戸時代中期の寛保2年(1742)建立の歴史的な神社建造物で、新進気鋭の能楽師による能が奉納されます。

格式高い観世流で注目される新進気鋭の瓦照苑の能楽師

若き伝統芸能継承者を輩出する瓦照苑。能の文化と魅力を発信

若き伝統芸能継承者を輩出する瓦照苑。能の文化と魅力を発信

今回、「天空の杜」が舞台の特別公演で能を披露してくださるのは、地元神戸の観世流上田家一門「瓦照苑」の能楽師達。33歳の若さで伝統芸能継承者として活躍する、新進気鋭の能楽団体です。
瓦照苑が属する観世流は、能を大成させた観阿弥を祖とし、能の演目で主役を演じる能楽シテ方五流派で最大の流派。室町時代に唯一幕府の保護を受けていたほか、江戸時代には幕府が保護した四座のなかで筆頭の地位を誇るなど、格式の高さでも際立っています。
そんな由緒ある観世流の世界で能の道に精進する彼らですが、伝統を大切に守り継ぐだけでなく、茶道と融合させた公演などの新たな取り組みで、能の文化継承と魅力発信にも尽力。新進気鋭の能楽師といわれる所以です。こうした活動を含め、瓦照苑が能において大切にしているのは、対話だといいます。
「私は、能を作り上げた人たちや長い歴史の中で受け継いできた人たちが、何を考え、何を思い、何を伝えようとしていたのかを想像し、推察し、探求することに骨折ります。先人たちと心の中で対話する、そんな感覚でしょうか。鑑賞する側の皆さんも同じように、能楽師と心で対話するような感覚をもって見ていただければ嬉しいです。そして鑑賞後は、思ったことや考えたことについて周りの人やご自身の心と対話してみてください。きっと能の世界を、身近に感じていただけると思います。」

生田の森での源平合戦を題材にした神戸ゆかりの演目「箙(えびら)」

生田の森の箙の梅と刀を模した小道具。「箙」の物語で大きなポイントとなる

生田の森の箙の梅と刀を模した小道具。「箙」の物語で大きなポイントとなる

今回の北野天満神社での特別公演で奉納披露するのは、「箙(えびら)」という演目。箙とは、武士が合戦の際に背負う矢筒のことです。江戸時代、幕府の式楽となった能のなかで、武家から最も好まれた演目のひとつだといわれています。
“旅の僧の一行が生田の森に至ると、梅の花が美しく咲いていた。一行が梅の花を愛でながら休んでいると、一人の男が現れた。男は、この梅が「箙の梅」という名の源平合戦にゆかりある木であることを教え、梶原源太景季がこの梅の枝を箙に挿して勇敢に戦い功名を上げた故事を語る。やがて男は、自分が景季の幽霊であることを明かし、姿を消してしまう。その夜、僧の夢に若武者姿の景季の霊が現れる。景季の霊は、修羅道の責めに苛まれつつ、この生田の森で繰り広げられた合戦の様を再現して見せた後、僧に弔いを頼んで姿を消したのだった”
源氏と平氏の覇権をかけた合戦で、雅な梅の枝を箙に挿して奮戦する若武者の活躍を描いた物語。舞台となっている生田の森は、北野界隈から坂を下った先の生田神社境内とその一帯で、源平合戦の激戦地となった場所です。そこには、箙の梅とされる梅の木が今なお残り、毎年美しい花を咲かせています。
こうした地元ゆかりの演目を通じて、その地の歴史や故事について発見や理解を得られることも能鑑賞の楽しみ方のひとつ。鑑賞の前後に現地へ足を運び、物語の世界に浸ってみることをおすすめします。

神戸の夜景とかがり火が醸し出す幽玄の美

神戸の夜景をバックにかがり火が照らし出す能舞台で舞う「箙」の舞。まさに幽玄の美

神戸の夜景をバックにかがり火が照らし出す能舞台で舞う「箙」の舞。まさに幽玄の美

平氏ゆかりの北野天満神社で奉納披露される、源平合戦の物語と故事を題材にした能の演目。今回の特別鑑賞は、一般参拝者がいない閉門後に境内を貸し切って行われます。「天空の杜」から一望する風景は、夕暮れとともに100万ドルと称される夜景へと変貌。そんな絶景を独占しているだけでも、特別感が湧き上がってくることでしょう。
さらに、能舞台となる拝殿の周りには神職によって薪のかがり火が灯され、神秘的な雰囲気に包まれます。こうした状況で特に選りすぐった演目が演じられる能は「薪能」と呼ばれ、起源は平安時代にまで遡るそうです。海と山からの風で炎が揺れるたび、拝殿も衣装も面もゆらめくように目に映る様は、薪能ならではの風情。最新の舞台装置や照明技術を以ってしても演出できないであろう、幽玄の美です。
100万ドルの夜景を背景に、かがり火が照らし出す「箙」の舞。源平合戦から800数十年の時を経た神戸の地で、彼らは何を思い、考え、誰と対話しながら舞台に立っているのでしょうか。そんなことを想像し、自身もまた梶原景季や古より続く能の舞いに思いを馳せて対話しながら薪能の世界に浸ってみるのもまた一興です。

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