犬飼農村舞台での阿波人形浄瑠璃をプライベート鑑賞

犬飼農村舞台での阿波人形浄瑠璃をプライベート鑑賞

2021年12月27日

The KANSAI Guide

人形浄瑠璃は、歌舞伎と並び約400年の歴史を重ねてきた日本を代表する伝統芸能。太夫、三味線、人形遣いの三業一体による世界唯一の舞台演劇であり、世界に数ある人形劇のなかでも最も洗練され完成度が高いといわれています。
かつて阿波国と呼ばれた徳島県では、古くから人形浄瑠璃が盛んで、阿波人形浄瑠璃として独自の発展を遂げてきました。1999年には国の重要無形民俗文化財に指定され、地元の人びとによって大切に守り受け継がれています。
今回のツアーでは、阿波人形浄瑠璃の特徴のひとつである、農山村部の野外舞台で行われる公演をプライベート鑑賞。神社の境内に佇む犬飼農村舞台を訪ね、阿波人形浄瑠璃の魅力に迫ります。

歌舞伎と並び日本を代表する伝統芸能、人形浄瑠璃

浄瑠璃と人形芝居の融合によって生まれた人形浄瑠璃

浄瑠璃と人形芝居の融合によって生まれた人形浄瑠璃

三味線の伴奏に合わせて太夫が物語を語る日本の伝統芸能、浄瑠璃。その起源は15世紀半ばとされ、牛若丸と浄瑠璃姫の恋物語の演目が流行したことから、主人公の名にちなんで浄瑠璃と呼ばれるようになったといわれています。
その後、16世紀末から17世紀はじめの頃、浄瑠璃に合わせて人形を操る人形浄瑠璃が成立し、歌舞伎と互いに影響を与えながら京都や大阪を中心に発展。淡路や阿波の一座が全国を巡業して、人形浄瑠璃の魅力を日本中に伝え広め、江戸時代の民衆にとって大きな娯楽となりました。
現在では、高い芸術性を追求するもの、娯楽として楽しむもの、神前で奉納するものなど、地域ごとにさまざまな形で、その伝統が受け継がれています。

太夫、三味線、人形遣い。三業一体による世界唯一の総合芸術

三味線の曲と太夫の語りで物語を演出。絶妙な掛け合いによる名人芸が光る

三味線の曲と太夫の語りで物語を演出。絶妙な掛け合いによる名人芸が光る

主遣い、左遣い、足遣いの人形遣い3人が一体となって人形を操作

主遣い、左遣い、足遣いの人形遣い3人が一体となって人形を操作

人形浄瑠璃の特徴と魅力は、太夫、三味線、人形遣いの「三業」によって繰り広げられる点にあります。それぞれが主張し過ぎることなく丁寧で緻密な作業に徹し、「三業一体」による世界で唯一の総合芸術を作り上げるのです。
床本と呼ばれる台本に沿って、演目の物語を朗々と語る太夫。その語りは、人物の台詞となる詞、情景を描写する地合、三味線にのせて歌うような節など、多岐にわたります。なかでも、登場人物になりきって情感たっぷりに語り上げる様は圧巻です。今回太夫を担当している竹本友和嘉師は、重要無形文化財の浄瑠璃「義太夫節」総合認定保持者でもあります。
三味線は、幅のある音色での演奏が特徴的。ズシリと響く重厚な音からすすり泣きのようなか細い音、さらには寒さや暑さを表現する音まで、実に多彩な音色で物語を演出します。太夫の語りを支える、絶妙な間の取り方も必見です。
人形遣いは、1体の人形を主遣い(頭と右手)、左遣い(左手)、足遣い(足)の3人一組で操ります。足遣い、左遣い、主遣いへと段階を経ていく過程は、足8年、左8年、頭一生といわれるほど。単体では無機質な人形も、人形遣いが魂を宿らせることによって人間以上の豊かな表情や感情を見せるのです。

民衆が興し、育て、守り続けてきた徳島の誇り、阿波人形浄瑠璃

神社の本殿で三番叟(さんばそう)の演目を奉納。阿波人形浄瑠璃の神事との深い関わりが窺える

神社の本殿で三番叟(さんばそう)の演目を奉納。阿波人形浄瑠璃の神事との深い関わりが窺える

そんな人形浄瑠璃の世界において、国の重要無形民俗文化財に指定されている徳島県の阿波人形浄瑠璃。
起源については定かではないようですが、同じ瀬戸内海の淡路島で人形芝居が隆盛した影響を受け、阿波の農民たちがその技を習得して独自の人形芝居を築き上げ、少なくとも18世紀前半には活動が始まったといわれています。その後、阿波藩主である蜂須賀家の庇護や、藍商人の支援などによって発展を遂げ、淡路と比較しても遜色ない数の人形座が存在したそうです。
農民など素人の活動によって運営された阿波人形浄瑠璃は、庶民の芸能として定着。その波は、農山村にも広まりました。地域の人びとが神社の境内などに専用の舞台を建てて人形座を作り、神社の祭礼に合わせて奉納する。そんな農山村の人びとの主体性が、阿波人形浄瑠璃の発展につながったといえます。

地元の人びとが大切に守り継ぐ、鎮守の森の農村舞台

地域の宝として大切に保存されている貴重な文化財、犬飼農村舞台

地域の宝として大切に保存されている貴重な文化財、犬飼農村舞台

阿波人形浄瑠璃を語るうえで外すことのできない、農山村の人びとが作った専用の舞台。地元では、農村舞台と呼ばれています。今回、特別文化体験の舞台となる犬飼農村舞台もそのひとつ。徳島市八多町の集落の外れにある五王神社境内、鎮守の森に囲まれた広場に立っています。
建造は、明治6年(1873)。以来150年近い時を経た今なお、地元の人びとが大切に保存・運用しています。1998年には、国の重要有形民俗文化財に指定されました。建築そのものはもちろん舞台装置としても素晴らしく、132枚もの襖絵を操り、松竹梅や唐獅子から千畳敷まで42の風景を次々に演出する「襖カラクリ」の仕掛けは必見です。
毎年11月3日には、五穀豊穣や家内安全を祈る五王神社の祭礼行事として、阿波人形浄瑠璃の奉納公演を開催。昔から日本人が行ってきた芸能の奉納が時代とともに減少しているなか、ここでは神事と密接に関わった民俗芸能の伝統が受け継がれています。時代や社会が変わっても、行政や企業、専門の興行主などが主導する催事ではなく、あくまでも地元保存会の有志による自主運営の祭礼行事として粛々と続いていることが、阿波人形浄瑠璃の尊さだといえるでしょう。

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