京都の日本酒物語 謎を創り出す

京都の日本酒物語 謎を創り出す

2020年12月10日

京都の日本酒物語_謎を創り出す
 俳優が自分の演技について、その演技プランから終演まで包み隠さず書いた本がある。山崎努の『俳優のノート』だが、日本の多くの舞台俳優たちのバイブル的な存在となっている。それはまさしく「謎」に取り組む者たちに共通の、「先」を見ようとして見えないものに挑戦するあがきそのものであるようにも見える。それは鮮烈で、豪快で、細心で、常に震えている。彼はシュークスピアの『リア王』を演じたのだ。すでに多くの俳優たちが挑戦し、時に成功、時に落胆してきた役でもある。
 「謎」というのは、演技だけでなく、あらゆる「もの」作りに存在するだろう。山崎は公演前日「よし、明日はリアに身体を貸すのだ」と書いて臨んだ。そうかもしれない、結局はどのような創作も、作り手の自我より大きな存在に入り込むしかない。もし「謎」がないと思えてしまったら、果たして観客や堪能してもらう人達に、薄っぺらなものを与えるだけとなってしまうだろう。
 シェークスピアの『リア王』は、決して偉大な王の話ではない。むしろ敗者といえる。だからこそ非常に難しい人物設定になっている。複雑だが、非常に魅力的な人物。そういうものに人は虜になるのではないか。
 【ラビリンス酒蔵】若宮酒造
 「綾部には敗者の城があった」と若宮酒造の木内社長は語った。400年以上も前の話だが、時代は群雄割拠する戦国時代。隣の福知山には明智光秀という武将が辺りを制覇していた。綾部は敗軍の将がいた。だったら「負けた側の地として逆に打ち出せばいい」というのである。京都から一時間もあれば綾部に着くことが出来るが、大勢の観光客を呼ぶほどのものはないかもしれない。しかし、逆転はどこかにあるはずだ、と。

 綾部にはそれほど何もないのか、いやいや紅葉で有名な安国寺、世界的に名の知られた黒谷和紙、さらには新しい宗教を創り出した土地でもあるのだ。それらは確かに決定打ではない。だからこそ、逆転が必要だった。

若宮酒造の木内氏が創り出したいのは、いわば『リア王』を演じる山崎努のように「謎」かもしれない。酒蔵見学の人達に「試飲」をしてもらう。

そこで説明するよりも体感してもらって自分に合ったものを見つけてもらう。
味は言葉では説明できない。サッカー好きの木内氏は欧州の共通言語・サッカーと同じように「酒」を言葉以外で語りたいのだろう。確かに「酒は謎」を孕んでいるのだから。

若宮酒造株式会社
〒623-0031
京都府綾部市味方町薬師前4
見学時間:9:00-16:00
定休日:日・祝
外国語HP:なし
交通アクセス
①JR京都駅からJR綾部駅下車、JR綾部駅前からバスにて若宮酒造前駅下車、徒歩約1分(所要時間目安:約120分)

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